経営者の壁打ち|50分に持ち込むものと、持ち帰るもの

木曜の夜、社員が帰ったあとの事務所で、来年4月に営業をもう1人採るかどうかをまた考えている。採れば売上は伸ばせそうですが、人件費の重さと、自分が教える時間をどう作るかが頭から離れず、結局いつもの結論に戻ってしまいます。誰かに一度話してみたいと「経営者 壁打ち」で調べると、上位には相手の種類と選び方を扱った記事が並んでいて、実際に会ったその時間に何を話せばいいのかは、自分で考えるしかなさそうです。
経営者の壁打ちは、相手を選んだあと、会う時間(この記事では1回50分の例で書きます)に何を持ち込み、どう割り振り、何を持ち帰るかで、終わったあとに手が動くかどうかが変わります。持ち込むのは「今日決めたいことの1行」と「材料のメモ1枚」で、最初に相手に頼む役を1つ伝え、最後の10分を先に空けておいて、次の一歩と期限と次に話すことを決めて帰ります。この記事では、その用意のしかたと時間の使い方を順に書くので、読み終えるころには、来週の予定を入れる前に、持っていく紙1枚を書き上げられるはずです。
書いているのは、経営者向けのコーチングを1回50分のオンラインのセッションでお引き受けしている会社です。
壁打ちの相手を探しはじめたなら、あとはその時間に何を持っていくかを決めておくと、話した内容が翌日の仕事につながりやすくなります。
経営者の壁打ちは、持ち込む1行から始まる


「このままでいいのか」という塊のまま話しはじめると、相手もどこから聞けばいいかが分からず、50分の多くを、何について話しているのかを探す時間に使ってしまいます。一人で整理するなら、頭にあることを紙に全部書き出し、自分で動かせるものとそうでないものに印を付け、自分で動かせるものだけを期限の近い順に並べて、いちばん上の1つに次の動作を1行書く、という4つの手順が使えます。そのうえで、一人では決め切れずに残ったものが、そのまま人に持っていく材料になります。手順の細かい進め方は、経営者に相談相手がいないのは普通ですに書いています。
今日決めたいことを、1行の問いにする
壁打ちの前に、その日の50分で何を決めたいのかを1行の問いにしておきます。話題の名前のままだと、話がどこまで進めば終わりなのかが決まらないので、期限と、決めたい中身を入れた問いの形に直します。
- 話題の名前のまま
「採用をどうするか」「来期の売上」 - 決めたい問いの形
「来年4月に営業を1人採るかどうかを、今月中に決めたい」「来期の売上目標を、いまの人数のまま置くか、1人増やす前提で置くかを決めたい」
問いの形にしておくと、話が脇道に入ったときに、相手にも自分にも戻る場所が見えます。1行に書けないときは、決めたいことが2つ以上混ざっていることが多いので、いちばん期限の近いものだけを残して、ほかは次の回に回します。1行に書いた問いがもう何か月も決まらないままなら、その問いに足りないのが材料・物差し・引き返し方のどれなのかを先に見分けておくと、壁打ちで話す中身が絞れます。見分け方は決断できない経営者へに書きました。
材料は、数字と期限と選択肢をメモ1枚に
問いの下には、判断に使う材料を短く並べておきます。採用の例なら、出せる給与の上限、任せたい仕事の範囲、いつまでに決めないと募集に間に合わないか、採る・採らない・外注で補う、といった選択肢です。きれいに清書する必要はなく、話しながら指をさせる程度に書いておけば使えます。


相手に頼む役を、最初に1つ伝える
壁打ちの相手にしてほしいことは、人によって違います。問いを投げて考えを引き出してほしいのか、あえて反対の立場から突っ込んでほしいのか、まずは最後まで黙って聞いてほしいのかを、話しはじめる前にひと言で伝えておくと、相手もその役で関われます。答えそのものがほしいなら、その分野の専門家やコンサルタントに聞くほうが早く、考えを自分の言葉にしたいなら、問いを返してくれる相手のほうが合います。
1行の問いが書けたら、それをいちばん上に置いた紙を、そのまま相手に見せてください。最初の数分で「今日はこれを決めたい」が共有できると、途中で話がそれたときも、その1行に戻って確かめられます。
50分は、最後の10分を先に空けておく


話が乗ってくると、気づいたときには終わりの時刻が来ていて、次に何をするかを決めないまま別れることがあります。そうならないように、50分のうち最後の10分は、次の一歩を決めるための時間として、始める前に相手と約束しておきます。割り振りの一例は、次のとおりです。
- 最初の5分
今日決めたい1行を読み上げ、相手に頼む役を伝えます。 - 真ん中の35分
メモの材料を見せながら話し、相手の問いに答えていきます。 - 最後の10分
次にやる一歩と、その期限と、次に話すことを決めます。


数字は一例で、相手や話の中身によって変えてかまいません。大事なのは、最後に決める時間を真ん中の話に食われないように、先に取っておくことです。
途中で答えが出なくても、話を止めない
相手の問いにすぐ答えられないときは、「分からない」「まだ決めていない」とそのまま言ってかまいません。人前で迷いを話すことにためらいがあっても、壁打ちの場では、答えに詰まったところがそのまま、まだ決まっていない前提の在りかを教えてくれます。話しながら自分の口から出た言葉で、引っかかったものがあれば、メモの余白にそのまま書き留めておきます。
私自身、会社員から副業、フリーランス、法人の経営と立場が変わるたびに、何を優先するかで迷い、考えがまとまらないまま時間が過ぎた時期がありました。対話で考えを言葉にしたときに、行動が大きく変わったのを覚えています。
持ち帰るのは、次の一歩と期限と、次に話すこと


最後の10分で決めるものは3つです。次の一歩は「考える」「検討する」で終わらせず、「求人を出している同業の知人に、給与の相場を電話で聞く」のように、手が動く動作の形で1行に書きます。期限は「近いうちに」と書かずに、日付で書きます。次に話すことは、その一歩をやってみた結果を持って、次の回に何を決めたいかの1行です。


話した直後は分かったつもりでも、日がたつと順番があいまいになりやすいので、振り返りの目安として、終わってから24時間以内にこの3つを自分の言葉で書き直し、本当に実行できる内容かを確かめておきます。相手が言ったことを写すより、自分の言い方で書いたほうが、手帳を開いたときに動き出しやすくなります。次の一歩をやってみた結果に合わせて「次に話すこと」を見直せば、それが次の回に持ち込む問いになります。
AIとの壁打ちは、話す前の下ごしらえに使う
生成AIに話しかけて考えを整理する方法もあります。壁打ちの前日に、決めたい1行と材料をAIに渡し、見落としている選択肢や、相手に聞かれそうな問いを挙げてもらうと、当日に持ち込むメモが厚くなります。AIとのやり取りでは言葉にできなかった、やりたくない気持ちや怖さのようなものがあれば、安心して話せる相手との50分でそれを扱う、という分け方もできます。
AIに材料を渡すときは、社員の名前や評価、お客さまの情報を入れないように気をつけてください。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、事業者が生成AIに個人情報を含む指示を入れる場合は、その個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。人に相談するときも同じで、社員やお客さまが特定できる情報は、話に必要でなければ伏せておくと安心です。
次の一歩が小さく見えても、気にしなくて大丈夫です。電話を1本かける、数字を1つ調べる、くらいの大きさのほうが、翌日に本当に手が動きます。
来週の50分に、1行と紙1枚を持っていく


経営者の壁打ちは、今日決めたいことを1行の問いにし、数字と期限と選択肢をメモ1枚にまとめ、相手に頼む役を1つ伝えるところから始まります。50分は最後の10分を先に空けておき、そこで決めたことを24時間以内に自分の言葉で書き直し、次の一歩をやってみた結果に合わせて見直した「次に話すこと」を、次の回の紙の1行目に書きます。まずは今夜、来週持っていく1行を、紙のいちばん上に書いてみてください。
当社の経営者向けコーチングは、1回50分・月2回のオンラインのセッションで、質問と対話を通じて頭の中にあるものを言葉にし、優先順位を決めて、次の一歩を実際に動ける形にするところまでご一緒します。体験セッションは50分・5,000円(税込)で、続けるかどうかは体験のあとに決めていただけます。
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